住職のショートショート:エピソード38「人の為になら、悪いことできます。」

人の為になら、悪いことできます。

いつものように、私はAさんの親御さんのご命日のお勤めのあと、
お茶をいただいてました。

Aさんはふと、
「人は、誰かのためなら、悪いことできますね」とおっしゃって、
私はどういうことなのか、お尋ねしました。
「もう数十年前のことになりますが…。
当時の警察の上の方と懇意になってました。
それでもし困ったことがあれば、私の名前を出して頂いて
構いませんからと言われていました。」

そんなことも忘れていた頃。
Aさんは、友人が運転する車でいっしょに出かけ、
その友人が交通違反をしてしまいました。
警察官に呼びとめられ、あの時の
「困ったことがあれば…」という言葉を思い出したそうです。
それで呼び止めた警察官に、Aさんは横から
「実は私はこういう方を知っているので、連絡をしていただけないでしょうか?」
とお願いして、懇意にしていた警察の上の方には
「その違反をした方、日頃はとても真面目で、
社会的にいろいろ貢献されている方なので、今回は見逃してあげてはどうか。」
と口添えくださいました。

そのエピソードを私にお話されたAさんは、
「自分自身がした違反なら、そんなことはできませんでしたが
なぜかその友人のためになら、悪いことと思っていてもできてしまいました。
不思議なものです。人は誰かのためになら悪い事もできてしまうのですね。」
とおっしゃいました。
いまとなっては、そのようなことは許されませんが。

違反を逃がれた方の気持ちはどうだったのか、
別に頼んだわけではないので、ラッキーだと思われたのか、
あるいは大きな借りを作ったと感じられたのかも。

何が善で悪なのか、曖昧な世界に私達は暮らしてるなあと思いました、

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