住職のショートショート:エピソード31 記憶「ソテツを植え替えた理由」

記憶 ソテツを植え替えた理由

お寺の御堂の前に大きなソテツがあります。

針のような葉で、触れるとても痛みが有ります。もう百年くらいになると聞いています。

小学生の頃、ソテツの綿のような部分を傷口に当てると、効果があったのか、
良く怪我をする私の治療薬になっていました。

当時は山門の前にソテツが植わっていました。
お寺改築をした時に、設計者が天井がガラス張りの建物を作りたいということで、
ソテツを移植する事になりました。

設計者は廃棄を考えていたようでしたが、私は頑なに移植を提案しました。
それは親から伝え聞いていた事があるからです。

ソテツの裏でよく人が泣いていたというのです。
その頃はいつでも人が入って来られることが出来ました。
直ぐに入って外から見えないソテツの裏は、
ひっそりとしていて、落ち着く場所になっていました。
泣いて泣き切って心が浄化されて立ち直っていかれた方がいます。
その人達にとっては懐かしい思い出の場所になっていると私は考えました。

「このソテツはもう何年になりますか?」と私に質問される人がいます。
もしかしてその方も、ソテツの年数を質問されたのではなく、
当時を思い出されていたのかも知れません。
ソテツはお寺歴史をそっと見てきたように思います。

ただ植え替えたことによって、その場所にあった他の植木を廃棄しました。
「私が植えた木を勝手に切ってしまって!」と苦情がきました。
私はその方が植えたと知らなかったので、
ごめんなさいと言うしかありませんでした。
 

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