住職のショートショート:エピソード26「歩いてお参りですか?」

歩いてお参りですか?

私は、これから伺う予定のお参り先に車が停められず、
少し離れたコインパーキングに駐車し、歩いて向かっているところでした。

商店街を歩いていると、前方から女性がこちらに向かって来ます。
とても和らいだ表情で、「歩いてお参りですか?」と質問されました。
まったく知らない方から声をかけていただいて、
一瞬どのように答えようかと迷いました。

というのも、
私の父母の時代は、歩いてお参りに行くのが当然だったのが、
自転車で行くようになると驚かれ、バイクで行くようになって呆れられ、
車で行くようになったら「新しいものがお好きですね!」と揶揄されたらしいので。

ですが私は「そこのパーキングに駐車して歩いているところです。」
と正直に答えました。

するとその女性の表情は(やっぱり!)と言わんばかりに
鬼のようなお顔になられました。

どうやらその方は、テレビ等で放送される、托鉢のような立ち居振る舞いを
お坊さんのイメージとして捉えておられていたのでしょう。
私の答えに、その方はとても気分悪くさせてしまったようでした。  

ふと、子どもころに母から聞いた話を思い出しました。
天狗さんは、少しでも道や草むらにいる虫を踏みつけたり、
殺生しないようにとの思いで一枚刃のゲタを履いていたそうです。

私が「歩いてお参りしてます。」と、ウソを言えば
その方を憤慨させる罪は、作らなかったかも知れません。

思わぬところで他人を傷付け、憤慨させていることは沢山あるのだろう、
と、この事で考えさせられました。

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