住職のショートショート:エピソード15 「猫は自分に正直 」

猫は自分に正直

ずっと以前、私の姉は押熊「おしくま」(奈良県)に住んでいた事がありました。
「とても賢い猫がいるので、もらって欲しい」と、私に連絡が有りました。
なんでもその猫はモグラを捕まえるそうで、役所に持っていくと少しばかりお礼が頂けるとのこと。
キャットフードの購入費用を自分で捻出しているのでした。
私は、猫2匹(雄の兄弟)を引き取りに行きました。

すると父から「猫を連れてなら帰って来なくてよい!」と、怒りの電話がありました。
私は、夜遅くこっそりと家に帰り、猫達を部屋から出さずに暮らしていました。

数年が過ぎてたある日、お寺に子猫が外からやって来ました。
すでに2匹の猫がいるので、私は飼わない事にしました。
ところがなんと父は「わしが飼う!」と言い出しました。
あの日に私に言った言葉はなんだったのか!

その迷い猫は父に可愛いがられました。
ちょうど銀杏(いちょう)の季節にやってきてので銀子(ぎんこ)ちゃんと名付けられました。
それから父は、ぎんこちゃんの為に大好物の鰹節を、わざわざ鶴橋の市場に買いに行きました。
寒くないように毛布を用意したりと、なにかと世話をやくようになりました。

ある時、買い物して帰った父が、鰹節をあげようとするとぎんこちゃんは食べません。
多分お腹がすいてなかったのだと、私は思いました。

「せっかく、買ってきたのに、何故食べないのか!」と父は機嫌が悪くなりました。
横にいた母は、「猫は正直なんや」と小声で呟きました。

人間なら忖度して、せっかくだからと、少しだけでも頂いたかも知れません。
また母は、父にはいつも従っていたので、自分の想いに正直にならずにいられなかったのかも知れません。

私は、父が突然に猫に世話をするようになったことに呆れていました。

その話を、友人にした事があります。
友人は「なんでやろな?」とまたオウム返しに呟きました。
その言葉が、私はひっかかるようになりました。

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