住職のショートショート:エピソード9 「お若いですね!」

お若いですね!

私は以前、『仏教テレホン相談員』をボランティアでしていました。
初めての日です。電話がかかってきました。
私は、声のキーをあげて、なるべく明るく応対しよう電話にでました。
すると相談者の第一声は、「お若いですね!」でした。
「もっと落ち着きのあるお寺様が、出られるかと思ってました。
私よりもっと悩みのある方の相談に乗ってあげてくださいね。」
と電話が切れました。


私はショックでした。
私は、めげずに相談室に通ってたある日、
いつものように電話にでると、「わしは、今から死ぬから、覚悟して聞けよ!」
と、電話の声です。
私の頭の中は、ぐるぐる回転し始めました。
私の応対によっては、大変な事になるかもしれない。
しかし口から出たのは「はあー」と、なんとも頼りない言葉。

すると「淀川にどんな魚がいるか知ってるか?」と質問されました。
なんだろうこの展開は?と私は動揺しました。
「大阪に住んでてそんなことも知らないなのか!」と叱られ、
「ちょっと待て、今から1時間喋るから!」と待たされました。
電話の向こうからは、カラカラという音が…。
どうやら冷蔵庫を開けて氷を出して、水割りを作ってるようです。


およそ1時間ほど、聞いていました。
子どもの頃に、親の日記を見ると自分の誕生を親が喜んでるのですが、それはお国の為に子どもを授かったからと書かれている。その方は、『親が自分を愛しているわけではなかった。』と受け取り、その事がずっと引っかかって引きこもってしまったそうでした。

私の隣の相談員は電話の相手に、
「世界中の人があなたを見放しても、あなたが自分を見放してどうするのですか!」と。
私にはそんな言葉はでて来ず、相変わらず、自信のない頼りない応対をしてしまいます。

1時間ほど過ぎました。
いよいよ時間切れです。
「もう、わしは、死ぬのをやめにすることにした。お前みたいに頼りないものが、生きていけるのに、なんで俺が死ななあかんのや!」と。
私は呆気に取られながら、受話器を下ろしました。

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